地域観光の最前線ノート

地域の観光事業の最前線で事業に奮闘するブログです。

地域おこしや地域活性化でみんなが誤解していること

今年で地域の観光業に携わって、丸5年が経過しました。たかが5年。とはいえ、時間が経ったいまだからこそわかってきた地域の実情もあります。今回は地域に新しく入ってくる人たちが誤解しがちな地域の実情についてまとめてみたいと思います。

  1. 新しいプレーヤーとしての地域おこし協力隊
  2. 産官学連携の形で活動する大学の先生と学生たち
  3. 「地域の人たちはお客さんが少なくて困っている」は間違い
  4. 本当の問題は若年人口の流出+高齢

本題の前に

地域においては、都市部と違ってそもそもプレーヤーの数がとても少なく、非常に狭い世界でものごとが動いています。それこそ、新しいIターン夫婦が1組入るだけでも、すぐに噂でわかるレベルです(冗談ではなく、ほんとです。苦笑)そこで実情について述べる前に、まず、地域に新しい人が入ってくる典型的な例として「地域おこし協力隊」や大学生たちを取り上げたいと思います。

新しいプレーヤーとしての地域おこし協力隊

地域におけるメインプレーヤーは昔から住んでいる地元の方たちであるのは、どこの地域でも同じだと思います。しかしながら、ここ数年、国の後押しもあり、「地域おこし協力隊」という人たちが入ってくるようになりました。みなさんご存知でしょうか?

「地域おこし協力隊」とは、総務省が担当する移住促進+地域活性化の施策の一つで、簡単にいえば、自治体が地域の諸問題の解決を目的に、都市部に住む若者などを募集・採用し、地域で活躍してもらう事業のことです。

総務省のHPでは、「地域おこし協力隊制度」のことを以下のように紹介しています。

 総務省|地域力の創造・地方の再生|地域おこし協力隊 

都市地域から過疎地域等の条件不利地域に住⺠票を移動し、⽣活の拠点を移した者を、地⽅公共団体が「地域おこし 協⼒隊員」として委嘱。隊員は、⼀定期間、地域に居住して、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこしの⽀援や、 農林⽔産業への従事、住⺠の⽣活⽀援などの「地域協⼒活動」を⾏いながら、その地域への定住・定着を図る取組。

 リンク先をみると、年度別の隊員数の推移が載っていますが、平成21年には全国で89名だけだった隊員が直近の平成28年には3,978名と激増していることがわかります。近畿地方でも、一つの自治体で5~6名の隊員が在籍していることも珍しくなくなりました。

身の回りの例でいえば、この地域おこし協力隊の方たちは、「農業をやりたい!」という人もいれば、「アートをやりたい!」という人もいたりと、わざわざ都市部から小さな町にやってくるだけあって、個性的なメンバーが多いように感じます。

産官学連携の形で活動する大学の先生と学生たち

他の新しいプレーヤーとしては、大学の先生とその学生たちがいます。彼らは定住するわけではないですが、やはり地域を誤解して入ってくる、という意味でここで挙げさせていただきました。

地域では商工会などが産官学連携などの国の補助金の受け皿となり、観光系の大学と連携することがよくあります。学生さんにとっても、比較的楽しいフィールドワークになるため、新聞などを注意してみていると、様々な地域で大学生がヒアリングなどを実施し、観光周遊プランや企画を自治体や商工会向けに発表しています。

 以下は、北海道の中標津町での大学生の活動の記事になります。大切なのは、この研究発表会が実際に地域に生かされたかどうか、という点になりますが、だいたいそこまでは新聞などのメディアはフォローしていません。

dot.asahi.com

 

さて、ここまで地域に新しく入ってくる人たちを見てきましたが、地域おこし協力隊や大学との産官学連携は地域の課題に合っていて、成果が出ているでしょうか?

残念ながら、実はどちらも、ほとんど成果が上がっていない、というのが実感です。うまくいっていないのは、地域おこし協力隊も産官学連携も「地域の課題設定」の部分で間違っているのが原因ではないかと考えています。

「地域の人たちはお客さんが少なくて困っている」は間違い

(当方の狭い経験からでしかありませんが)結論から言うと、地域の観光分野の人たちはお客さんが少なくて困っているわけではない、のです。

では、何に困っているか。ずばり、担い手不足です。

 地域の状況をまだよく知らない人たちは、先入観も後押しして「地域は来てくれるお客さんが少ないことで困っている」と思い込み、「お客さんを呼び込める斬新なアイデア」を考えれば、地域の人のためになると思う傾向にあるように思います。しかしながら、実際に不足しているのは、その斬新なアイデアを実行する「人」であり、「実現まで周囲を巻き込める人材」の方なのだと思います。

 この誤解をした状態で、地域に来ると何が起こるでしょうか。観光分野に来る地域おこし協力隊の人たちを見ていると、まず着任して、熱心に活動しようと動き出すと、そもそも、それほど地域の人が困っていないことに驚くのではないでしょうか。また、そもそも地域をおこすために来たのに、地域の人が自分たちの地域を活性化してもらいたいと思っていないケースも少なくありません。

 前述の大学との連携でも、「どうやったら都会の人たちがその地域に来るか」という間違った課題設定で学生にプランを作らせてしまうため、せっかくのマンパワーがほとんど地域に生かされずに終わる結果となってしまいます。

 では、もう一歩踏み込んで、なぜ地域では担い手がいなくなってしまうのでしょうか? 

本当の問題は若年人口の流出+高齢

 担い手不足の直接的な原因は、地域に魅力ある職場がないことを背景とした、若年人口の流出+高齢化であると思います。

 地域はお客さんが少なくて困っているわけではない、ということの証拠に一つの例をご紹介します。最近とある観光施設から担い手不足により運営が危ぶまれているという相談を受けましたが、この施設では特別なプロモーションをしなくても、お客さんはいやでもたくさん来てしまう状況にありました。つまり、採算上は特に問題がない。しかしながら、観光というのはお客さんが来れば来るほど受け入れ側は大変になります。集客の問題ではなく、自分たちの力では受け入れ態勢を作れない、という問題で運営を断念しかけている現状が地域の観光には迫っていることがこの例からもわかると思います。本来はきちんとマーケティングすれば十分に存続しうるだけに非常にもったいないことが起きているともいえます。

 この問題への処方箋は簡単ではありませんが、一つ言えるのは、これからは若者に選ばれる職場、または、人材をプールできる余裕を持った事業者がこれからの地域では求められていく、ということです。そのために、雇用者は働き手の待遇改善や魅力ある仕事づくりに励まないといけません。

 最後に、以下の本は、現場での経験に裏打ちされた筆者(木下斉氏)が地域を変える鉄則を書いています。これから地域で活躍したい方はぜひ読んでみてください。

稼ぐまちが地方を変える 誰も言わなかった10の鉄則 (NHK出版新書)

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